SPIRIT匠の精神

独特の奥行きと深みのあるグラデーショ
ンで
私たちを魅了する七宝。

七宝の重要工程である「釉薬差し」
を担う
匠の思いとは。

エナメル(七宝)ダイヤル 制作者について

エナメル(七宝)ダイヤル施釉師 戸谷 航 氏

施釉師(せゆうし)
戸谷 航

1985年(昭和60年)愛知県生まれ。幼い頃からものづくりが好きだったことから、焼き物の製造法を教える愛知県立瀬戸窯業高校に入学。卒業後は安藤七宝店に就職し、「釉薬差し」という尾張七宝の最大の特徴であり、重要な工程を担う施釉師としての道を邁進している。

花瓶をはじめ、一般的な七宝製品の厚みが約1.0~1.5mmであるところ、クレドールの七宝の厚さは、わずか0.3mm。その極めて薄く小さな世界の中に、独特の奥行きと深みのあるグラデーションを精緻に施すことができる唯一無二の職人。

株式会社安藤七宝店

株式会社安藤七宝店

1880年(明治13年)大日本製造七宝会社の後を継ぎ七宝の製造販売を目的として、名古屋市にて創業。1890年(明治23年)、銀座に支店を開設。1900年(明治33年)には宮内庁御用達となり、その後様々な万国博覧会にて多くの賞を受賞している尾張七宝の老舗店。現在までに、伊勢神宮の七宝据玉(すえだま)や京都迎賓館の正面玄関の引き手に採用されるなど、多方面でその高い技術が評価されている。

作り手の思い

施釉師を志したきっかけをお聞かせください

施釉師を志したきっかけをお聞かせください

七宝(エナメル)との出会いは、高校2年生の夏休みでした。インターンシップで安藤七宝店を訪れ、その時に初めて七宝の存在を知りました。製作体験で小さな額をつくったのですが、ガラスの粉末である釉薬を二度三度と差しては焼き付ける工程がとても印象的で美しく、作業にのめり込みました。

施釉師とはどのようなお仕事でしょうか

施釉師とはどのようなお仕事でしょうか

花瓶などの七宝製品では、用意された釉薬をデザインに合わせて差す作業を担当していますが、クレドールのダイヤル制作では、イメージ通りの色味を出すために釉薬作りから担当しています。原料を炉で焚いて基本色を作り、基本色と顔料を組み合わせて細かく色味を設定した特別な釉薬を作ります。先輩の記録や以前の作業データを参考にしますが、上手くいかないことも多いです。毎回試行錯誤していますが、そのチャレンジも楽しく面白いです。

腕時計のダイヤルに七宝を施す難しさとは

腕時計のダイヤルに七宝を施す難しさとは

時計のダイヤルをつくる難しさは、サイズですね。花瓶などに比べると格段に小さいですし、時計のケースに納めるために、七宝を0.3mmの薄さに仕上げる必要があるからです。通常の七宝製品ではあり得ない0.3mmの薄さでは、どんなに濃い色の釉薬を差しても、濃淡のはっきりとした奥行きのある色味が出ず、透明色に近い浅い色味になってしまいます。そこで、クレドールのダイヤルづくりでは、しっかりと色味が出るように釉薬を独自に調合することから作業を始めます。他には、気泡にも苦労します。一般的な七宝には、鉛の入った釉薬を使うのですが、セイコーの腕時計では、たとえ肌に直接触れても大丈夫なように、鉛を含まない「無鉛釉薬」を使用しています。そのため、通常のものより気泡が入りやすいのです。顕微鏡で確認し、気泡を見つけたら工具で削って、埋めて、また焼いて…と修正作業を行います。クレドールでは非常に高い品質を求められますので、通常の七宝製品では良しとされる肉眼では確認できない僅かな傷も残さず磨き上げます。最後の研磨仕上げまで気を抜くことは許されません。

今回制作された限定モデルで、特にご苦労された点をお聞かせください

今回制作された限定モデルで、
特にご苦労された点をお聞かせください

今回の限定モデルは、メンズ・レディスともに高温で焼き付けた後の変形が大きく、悩みました。作業手順や焼成温度の見直しを行ったり、釉薬を十数種類試すなどして、失敗と改善を繰り返しました。どちらも試行錯誤しましたが、特にレディスモデルには手を焼きました。先程も触れましたが、クレドールの七宝ダイヤルには、鉛を含まない「無鉛釉薬」を使用しています。これは、通常よりも気泡が入りやすいということ以外にも、銀(素地)との色素成分の相性の問題から、赤系統色を出すのがとても難しいのです。赤系統色の釉薬は、銀に直接焼き付けると化学反応で黄ばみや黒ずみが発生するため、通常は銀と反応しない白色や透明色の釉薬で覆ってから赤系統色を施釉するのですが、時計のダイヤルに施せる七宝は0.3mmと非常に薄く、厚みに余裕が無いのでこの作業は行えません。そのため、銀に反応せずイメージしている赤系統色を出せる釉薬を開発するところから作業が始まりました。実際に色が決まり作業を始めてみても、焼成条件のちょっとした違いで発色が変わったり、色合いにムラができたり…と、さまざまな壁がありましたが、作業中の記録をしっかりとって作業精度を高めていきました。

今後の目標をお聞かせください

今後の目標をお聞かせください

これは以前からずっと変わらないのですが、「昨日より良いものを今日作る。今日よりいいものを明日作る」という気持ちで制作に取り組むことです。まだまだ技術を高めていきたいと、常に考えています。クレドールのダイヤルづくりで会得した技術を生かし、発展させて、もっと面白いものや七宝の魅力を伝えられる商品をつくっていければと思っています。