クレドールの
七宝ダイヤル

ダイヤル上に繰り広げられる、繊細な七宝の技

クレドールは、薄型のケースやムーブメント、厳選された外装素材はもちろん、ダイヤルにも多様な技術を採用し、日本発のドレスウオッチブランドにふさわしいエレガントな表現に注力し続けてきました。中でも、クレドールのダイヤルに欠かせない技法のひとつとして取り入れられているのが、繊細で深みのある表情を描く七宝です。

高度な技術を必要とする、
クレドールの七宝ダイヤル

素地の画像

クレドールの素地に使われるのは純銀。七宝の作品に多く使われる純銅製の素地と比べると、ガラス質の表面に透明感が感じられ、より艶やかな印象に仕上がります。

七宝とは金属製の素地にガラス質の釉薬を盛り、約750-800℃もの高温で焼成することによって繊細な色柄を装飾する技法です。古くより花瓶や飾り皿、アクセサリーなど、さまざまな作品に用いられており、特に日本の七宝は繊細な図柄と透明感の高さから、世界中で高い評価を獲得しています。

日本発のドレスウオッチブランドであるクレドールは、この伝統技法がかなえる優美な表情に着目。これまでに、七宝をダイヤルに用いた数々の腕時計をリリースしてきました。これを支え続けたのが、愛知県名古屋市に工房を構え、尾張七宝の技術を今日まで伝えてきた安藤七宝店です。施釉師の戸谷航氏は、ここで10年以上にわたり、クレドールの七宝ダイヤルを手掛けてきました。

図柄の輪郭に銀線を施す有線七宝を代表的技法とする尾張七宝では、主に素地となる金属に純銅を用いています。一方、クレドールの七宝ダイヤルに使われているのは純銀。戸谷氏によれば、「銀と銅では光り方や透明感が異なり、純銀製の素地のほうがより綺麗な印象を与えられる」といいます。
こうしたクレドールの素地は、専門の工場で製造されています。表面にパターンを刻み、ダイヤルの形に成形された後に戸谷氏の元に送られ、ここから繊細な七宝の作業が進められるのです。

微妙な色の違いを生み出す、
繊細な釉薬の調合

釉薬の調合は、まず複数の原料釉薬を調合し、一度焼き固めて固形化させるところから始まります。

七宝においてまず重要なのが、素地の表面を覆うガラス質の絵の具(釉薬)の調合です。釉薬の原料は大きく分けて、石と砂、触媒、着色料の4種類。それぞれの原料はさらに、珪石や硝石、コバルト、マンガン、クロム、鉄、銅など細かく分類され、狙いとする色調にするべく配合を調整していきます。

ただし、これらの原料を合わせただけでは単に砂の粒が混ざりあっただけとなり、中間色や狙った色味を出すことができず、釉薬としての役割を成しません。そのため、混ぜあわせた原料を、いったん約800℃で数十分焼成して調色します。焼成後にできた塊を、再び手作業で粉末状にすることで、粒が細かく色が均質化された釉薬が完成します。

5種類の釉薬の画像

クレドールのグラデーションのダイヤルに使用される釉薬は5種類。最も濃い色の釉薬をベースにし、薄い色の釉薬を作っていきます。

調合した原料釉薬を焼成して調色した後、乳棒で再び粉末状にすることで、はじめて塗料釉薬として使えるものになります。
クレドールの七宝ダイヤルでは、ベースとなる最も濃い色の釉薬を作り、ダイヤルにグラデーションを描く場合は、元の釉薬を淡い色で段階的に薄めた5種類の釉薬を個別に用意しています。その際に注意しているのは、極端に濃淡の差をつけないこと。微妙に濃淡が異なる釉薬を用意することで、施釉した際に自然なグラデーションに仕上げることができます。
また、釉薬の粘度は施釉師の好みによっても異なるといいます。戸谷氏の場合は、釉薬に水を多めに入れ、グラデーションの微妙な色調変化を調整しやすくしています。

5段階の釉薬と、
筆先の技が叶える
優美なグラデーション

グラデーションダイヤルの施釉の画像

グラデーションダイヤルの施釉の際は、色と色との境目は筆先で丁寧に突きながら馴染ませ、自然なグラデーションに見えるように仕上げています。

釉薬の準備を整えたら、いよいよ素地に釉薬を差していく工程に入ります。クレドールでは、ダイヤルの中心を淡い色で彩り、外側に向かうにしたがって濃い色へと変化していくグラデーションが描かれますが、単に段階的に釉薬を差していくだけでは自然なグラデーションには仕上がりません。

まず、ダイヤルの中心に最も薄い色の釉薬を差し、乾燥と焼成を行います。その後は、ダイヤルの外側に向かって段階的に濃い色の釉薬を差しながら同じ工程を繰り返していくのですが、単に釉薬をのせていくだけでは、色の境目がはっきり見えてしまう状態となるため、様々な技法が施されます。

その一つに、色調の異なる釉薬を差していく際、色同士の境目を筆先で突いて、丁寧に馴染ませていくという実に根気のいる作業があります。
しかも、境界をぼかすためには釉薬を調合する段階でも繊細さが求められます。戸谷氏によれば、「数種類の釉薬を用意するときには、それぞれの色が離れすぎない濃度で作っておく必要があります。色の濃さがあまりに離れていると、どうしても境界が目立ってしまいます。」といいます。

微妙な色の違いを生み出す、
繊細な釉薬の調合

表面だけに施釉した状態で焼成すると、張力によって素地が反ったり、釉薬にヒビが入ったりすることがあるため、裏面にも釉薬を施します。

焼成する際には素地の裏面にも釉薬を施す必要があります。表面は釉薬を繰り返し差すため次第に厚くなっていくため、裏面に釉薬を差さないと焼成時に起こる張力のバランスが均等でなくなり、素地が反ってしまったり、表面の釉薬にヒビが入ったりしてしまうためです。表裏両面に加わる張力にバランスをもたせることで、ダイヤルがフラットな状態に仕上がります。 裏面に差す釉薬は張力が強くなるように調合しています。この調合は、施釉師の長年の経験と勘によるところが大きいといいます。1回ごとの焼成は800℃で約1分。 実に最大で6回もの施釉と焼成の繰り返しを行う必要があります。
こうして色調の異なる釉薬を施された層が4層重なることで、ようやく美しく自然なグラデーションダイヤルが完成します。

丁寧な研ぎによって生まれる、
艶やかな表情

ダイヤルの研ぎの画像

施釉と焼成を終えたダイヤルは、丁寧に研がれ、七宝特有の艶やかな表情に仕上げられます。

施釉と焼成を繰り返し、鮮やかなグラデーションに仕上げられたダイヤルは、いよいよ最終工程の研ぎへと移ります。クレドールの七宝ダイヤルでは、まず素地と釉薬の面を揃えて平面にするための研ぎを行い、その後は水を差しながら砥石の目を徐々に細かくして仕上げていきます。七宝特有の艶やかな表情を与えるため、ここでも職人の手による繊細な技が求められます。

完成した七宝ダイヤルの画像

ガラス質ならではの透明感と、自然なグラデーションのダイヤルが完成。

釉薬の調合から施釉、焼成、研ぎに至るまで、すべての工程に長年の知識と繊細な技術が求められる七宝ダイヤル。完成したダイヤルは、ドレスウオッチにふさわしい優美な表情を湛え、腕時計を手にする人々を魅了します。
その高い審美性ゆえに、七宝ダイヤルはクレドールのコレクションに欠かせないダイヤルのひとつとなっています。