クレドールスケルトンモデルのすべて

クレドールのユニークネスを語るのに最もふさわしいのがスケルトン(skeleton=骸骨の意味)ウオッチです。1996年に誕生した初代スケルトンモデルは、美しいのみならず実用性を備えたことで当時大きな反響を呼びました。
最薄で0.25mmのパーツに彫金を施す匠の技は、年月を経た現在でも輝きを失うことはありません。

画像:GBBD981(2005年発売)

ヒストリーHistory

薄型機械式ムーブメント68系の
誕生と製造中止

スケルトンモデルの原点ともいえる、キャリバー6800の登場は1969年にさかのぼります。
当時セイコーの企業イメージをスイスの高級ブランドのように高めることを目標に、装飾性の高い極薄ムーブメントの開発が行われたのでした。
設計・製造・技能が三位一体となって生まれたキャリバー68系は、総厚 1.98mmの「薄さ」に加え、「美しさ」「実用性」を備えたものになりました。
しかしながら、その後の爆発的なクオーツ化の波に押されて、70年代後半にキャリバー68系を含めメカニカルムーブメントの製造は中止に至りました。

画像:キャリバー6800の初期モデル

キャリバー6800の初期モデル

機械式ムーブメントの復活と
スケルトンモデルの誕生

1992年、セイコー110周年記念モデルで機械式ムーブメントの製造が復活。93年には、クレドールの68系キャリバーも復活を果たします。
1990年代、市場ではクオーツ式腕時計が主流でしたが、ヨーロッパの多くのラグジュアリーブランドは機械式の繊細なスケルトンモデルをラインアップしていました。クレドール担当者の「どうしてもスケルトンを開発したい」という熱い想いから、社内の様々な部門に散っていたメカニカルの設計、生産技術、組立技術者を再度招集して開発が進められました。
そして、量産としては日本初*のスケルトン・キャリバー6899が完成し、1996年に初代モデルが発表されました。(*当社調べ)

画像:GBBD998 18KYG

1996年2月発売
6899(スケルトン)初代モデル
GBBD998 18KYG(販売終了)

彫金技法との出会い

クレドールのスケルトンウオッチは、初代モデルより「彫金」の技法と結びつき、アートピースとしての価値を一層高めてきました。
スケルトンキャリバーの開発にあわせて、当時宝飾時計の仕事を担っていた複数の技能者が選ばれ、一から彫金技術を習得することになったのです。
初代モデルの彫金デザインは、社内コンペで選ばれ、日本で古くから愛されている『菊』のデザインが採用されました。当時30代だった照井清(彫金の解説参照)もその彫金を手掛けたメンバーの一人です。
その後さまざまな彫金技法が開発され、日本ならではの繊細で優美な外観を持つモデルが数々と生み出されていきます。

画像:GBBD998 18KYG

クレドール スケルトンモデルの歩み

1996

初代スケルトンモデルが誕生

GBBD998

画像:GBBD998

1999

クレドール25周年記念限定 スケルトン パワーリザーブクロノグラフ

GBBL999/997 (Cal.6S99)

画像:GBBL999

2000

2000年記念限定 スケルトン パワーリザーブクロノグラフ

GBBL993 (Cal.6S99)

画像:GBBL993

2004

スプリングドライブ 工芸的価値を追求したスケルトン

GALJ999 / GBLJ999・997

画像:GBLJ999

2014

クレドール40周年記念限定 桜流水を貝で表現

GBBD965

画像:GBBD965

2016

漆芸で波を表現した限定モデル

GBBD963

画像:GBBD963

2020

ダイヤモンドと彫金が融合したスケルトンモデル

GBBD955

画像:GBBD955

2021

スケルトン25周年記念 18Kピンクゴールド限定モデル

GBBD952

画像:GBBD952

Cal.6899についてAbout Cal.6899

画像:キャリバー68系

キャリバー68系は、耐震性能や持続時間を確保した設計でありながら、薄さを実現するためにベテランの技術者がひとつひとつの部品を10ミクロン( 100分の1mm )レベルの精度で、作りこむ事が要求されます。
形状補正やアガキ(部品と部品の間に必要な隙間)調整には、時計師の手先の感覚のみで最終的な仕上げが行なわれ、熟練時計師でも一日にわずか1個から2個しか組み立てられません。そしてキャリバー6899は、さらにスケルトンウオッチ用に進化させたムーブメントです。

画像:スケルトンキャリバー6899
画像:スケルトンキャリバー6899 図面

スケルトンキャリバー6899の
こだわり

スケルトンを開発するにあたって、こだわったのは

  1. 日本ならでは美しさを盛り込むこと
  2. 実際の使用に耐え得る堅牢性をもつこと

という点です。
ムーブメント開発で決まったテーマは、風にしなる『竹』。実用性を確保した寸法で竹をテーマにパーツの抜きが設計されました。
68系の薄さと普段装着できる堅牢性を確保しながら、日本ならではの繊細で優美な外観をもつ独自性の高いムーブメントです。

トルクコントロールホイール(中間車)

画像:トルクコントロールホイール(中間車)

スケルトン化をすると空気抵抗が減少するため、てんぷの振り過ぎで歩度がずれる現象が起きます。これを防ぐため、トルクコントロールホイールを搭載し、振り角を制御することで安定した精度を実現しています。

68系ムーブメントの組立師インタビュー

難易度の高いキャリバー68系の組み立てについて、組立師の齋藤勝雄にインタビューしました。

齋藤 勝雄Katsuo Saito

組立師

1999年 一級時計修理技能士資格取得
2008年 時計技能競技全国大会優勝
2017年 卓越技能章(現代の名工)受章
2023年 黄綬褒章受章
画像:齋藤勝雄
  • 師匠である桜田氏から68系ムーブメントの組立技術を受け継ぐ中で難しかったところはどこですか。
  • 「受け継ぐ」ということは、桜田が作り出すものと全く同じものを作れるようになること、桜田がどこにも手を入れたいとは思わないレベルに達すること、と理解しています。
    そもそも「68」というのは、ただ組み立てれば動き出すという事は皆無で、一つ一つの個体にあわせて調整をしなければならない。組立、調整、分解作業を3~5回繰り返すのが通常です。最初から最後まで調整作業の連続です。少しでも手を抜くときちんとは動かない。しかも部品に傷はつけられない。
    自分はばっちりだと思っても、桜田からは10個中10個とも「違うよ」と返されてしまうこともありました。一番難しくて最後までダメ出しされていたのが精度の要である「てんぷの調整」で、結局OKが出るまでには5年かかりました。
  • てんぷの調整はどのように行いますか。また道具も重要な要素ですか。
画像:てんぷの調整作業の道具
  • 機械式時計はその姿勢によって進み遅れが異なります。その差を極限までなくす作業が、てんぷの調整です。繊細な調整が必要なので大変なんです。調整作業のひとつに、「てんぷの錘取り(おもりとり)」という作業があります。てんぷの重量のバランスを確認し、重い部分を”キリ”で削り取り、重さが均一になるように微量の調整をします。しかし、“キリ”でどのくらい削ればよいかは感覚と経験値でしかない。人によって指の力も異なり削り量も変わってくる。息を止めて作業しています。とにかく削る、組み込む、測定、を繰り返して精度を高めていく。
    道具に関しては、ピンセットやドライバーなどを買ったそのままで使うことはなく、「68」に合わせて加工します。ドライバーは、ねじ溝の深さ・幅に合わせて形状を整えます。ピンセットは、表面と内側を磨きます。内側まで磨くと滑りやすく部品をつかむのが大変なんですが(笑)、きれいな部品に傷がつかないようにこのような加工をしています。
  • キャリバー6899の組立は、スケルトンならではの難しさはありますか。
  • 歯車の動きが全部見えるように、「受(うけ)」という部品が全て中抜きされているのが魅力なのですが、強度の面でいうとやっぱり弱くなってしまう。「受」は歯車の軸を支える板状の部品なのですが、一番薄い部分は0.25ミリしかないので、ねじれや反りが出やすくなります。例えば、歯車が滑らかに動くように上下のガタは100分の1ミリ単位で調整するのですが、歯車の微細な調整をするためには、まずそれを支える受の反りから調整しなければなりません。
    調整は非常に繊細で、全て指の感覚で行います。フラットな板の上に受を置くと、反りやねじれがあればカタつきますので、調整が必要な部分を見極めて指で押して直していきます。受に施されためっきの種類によっても硬さが異なるので、力加減も変えていきます。
    組み立てながらこのような微調整を繰り返すことが不可欠なので、6899の組立は時間がかかります。
  • 現在は技術を伝承していくお立場ですが、受け継ぐ方に持ってもらいたい心構えといったものはありますか。
  • 素直に受け入れる心が大切だと思います。今、松尾という組立師に技能伝承を行っているのですが、彼にはその心構えがあります。時計知識の豊富な方はたくさんいるのですが、知っているがゆえに「私はこうしたい」という想いが強すぎて、その想いや、やり方にこだわるあまり、先に進めなくなってしまうことが多いのです。師匠の話を聞いて聞き入れること、それがないとなかなか前に進めないですね。単に「仕事を教える・教わる」ことと違って、師匠と同じものを作れるようになることが「伝承」です。規格に入っていればよいというわけではなく、「師匠ならあと一手こうする」というところまでたどり着けなければいけません。師匠の側も、弟子から良いものが出来てきても「自分ならあと一手こうする」と思えば、だめだと言って返します。ミスからその原因を自分で考え工夫し続けることで少しずつ進歩していきます。師匠の伝承する気持ちと、弟子の聞き入れる気持ちの双方がきちんとしていることが重要ですね。
画像:齋藤勝雄と松尾健

指導している松尾健(まつおけん)と。 松尾も2014年時計技能競技大会で優勝している。

  • 現在は技術を伝承していくお立場ですが、受け継ぐ方に持ってもらいたい心構えといったものはありますか。
画像:齋藤勝雄と松尾健

指導している松尾健(まつおけん)と。 松尾も2014年時計技能競技大会で優勝している。

  • 素直に受け入れる心が大切だと思います。今、松尾という組立師に技能伝承を行っているのですが、彼にはその心構えがあります。時計知識の豊富な方はたくさんいるのですが、知っているがゆえに「私はこうしたい」という想いが強すぎて、その想いや、やり方にこだわるあまり、先に進めなくなってしまうことが多いのです。師匠の話を聞いて聞き入れること、それがないとなかなか前に進めないですね。単に「仕事を教える・教わる」ことと違って、師匠と同じものを作れるようになることが「伝承」です。規格に入っていればよいというわけではなく、「師匠ならあと一手こうする」というところまでたどり着けなければいけません。師匠の側も、弟子から良いものが出来てきても「自分ならあと一手こうする」と思えば、だめだと言って返します。ミスからその原因を自分で考え工夫し続けることで少しずつ進歩していきます。師匠の伝承する気持ちと、弟子の聞き入れる気持ちの双方がきちんとしていることが重要ですね。
  • このお仕事をされていて、楽しいと感じるのはどういう時ですか。
  • それはもう辛いことだらけ(笑)。だけど、その分完成した時のやりがいや達成感を強く感じています。
    小さい頃からもの作りが好きだったので、時計組立に携わってからも、時計作りの面白さはずっと感じていました。ところが、「68」に出会ったことでこれこそが時計作りなんだというのが分かりました。たくさんの繊細な調整作業を行う大変さに加え、一個作りの限定品も多く、絶対にミスはできない。怖いし辛いですが、仕上げた時の達成感はすごいです。「68」の組立師として、誇りを持ってこの仕事をしています。
  • お客様へのメッセージはありますか。
  • これだけ綺麗な時計はなかなかないと思います。特にスケルトンは、てんぷの動きや歯車がゆっくり動いているのがはっきりと見えて、生きているような息遣いが感じられます。彫金の美しさに関しては芸術品の域で、普段作業しながらも「やっぱりこの時計はすごい」と思わされるほどです。
    引き込まれて、じっと見ていられる魅力がある時計です。普段使いできる時計ではないかもしれませんが、ハレの日などに着けて、動きや美しさを眺めて楽しんでいただけけたら嬉しいです。この美しい時計を持っているステイタスを感じていただけたらと思います。
画像:齋藤勝雄
画像:齋藤勝雄
  • これだけ綺麗な時計はなかなかないと思います。特にスケルトンは、てんぷの動きや歯車がゆっくり動いているのがはっきりと見えて、生きているような息遣いが感じられます。彫金の美しさに関しては芸術品の域で、普段作業しながらも「やっぱりこの時計はすごい」と思わされるほどです。
    引き込まれて、じっと見ていられる魅力がある時計です。普段使いできる時計ではないかもしれませんが、ハレの日などに着けて、動きや美しさを眺めて楽しんでいただけけたら嬉しいです。この美しい時計を持っているステイタスを感じていただけたらと思います。

彫金についてAbout-Engraving

画像:雫石高級時計工房の彫金

洋彫りでありながら、
シャープで煌めく独自の技法

クレドールの彫金は洋彫りをベースにしています。しかし、一般的な洋彫りの技法で曲線を彫った場合、片面だけしか輝かない、彫った面が粗れてしまう問題があります。そこで、どの角度からも美しく輝く美しい彫金断面をめざし、独自の彫刻刀(バイト)を開発。その結果、洋彫りの繊細さをもちながら、和彫りのようにシャープで輝くという独自の彫金が実現しているのです。

独自の彫刻刀

画像:独自の彫刻刀

一般的な彫刻刀は底面が直線的で使いやすいが、部品にそりが出たり突き抜けたりするリスクがあり、クレドールでは独自の刃先の形状をもつ彫刻刀を開発し使用しています。さらに、繊細な刃先の形状のメンテナンスとそのための道具作りも重要な技能のひとつです。これにより、伝統的な和彫りでも洋彫りでもない独自の彫金技術が生まれ、視点に左右されない美しい輝きが生み出されています。

極薄ムーブメントへの彫金

総厚1.98mmのキャリバー6899の最薄の部品の厚みは0.25mmしかなく、強い力を加えると突き抜けてしまいます。
そこに0.15mmの深さの範囲で彫金を施すためには、彫りの技術だけでなく、長年訓練した指先の感覚が必要です。まさに熟練の彫刻師のみがなしえる工程といえます。

画像:極薄ムーブメントへの彫金

彫金師インタビュー

スケルトンムーブメントへの彫金の難しさや、技術継承について、第一人者である照井清と一線でクレドールの彫金にたずさわっている小川恒にインタビューしました。

照井 清
Kiyoshi Terui

彫金師

1970年 第二精工舎入社
1993年 貴金属装身具製作
一級技能士資格取得
2002年 卓越技能章(現代の名工)受章
2007年 黄綬褒章受章

小川 恒
Hisashi Ogawa

彫金師

2007年 盛岡セイコー工業入社
2009年 雫石高級時計工房に所属し、現代の名工である照井に師事
2013年 CREDOR彫金モデルの製作を担当
現在は彫金のリーダーとしてCREDORの製造・開発に携わっている。
画像:雫石高級時計工房 彫金工房所属の彫金師たち

雫石高級時計工房 彫金工房所属の彫金師たち。 左から、兼﨑遼斗、長尾佳奈、照井清、小川恒。 現代の名工・照井からの技能伝承を受けながら、各々が新技術の開発にも取り組んでいる。