美しくあれ!
時を豊かにするためにクレドールは進化する

写真:技の文字

ブランド誕生の話、ジュエリーウォッチの話、さらにはデザインや伝統工芸とのコラボレーションなど、バリエーションの多い高級コレクションには、たくさんの逸話が存在した。その最終回を締めるのは、企画者として現場に関わり、その後も管理職として長きに渡りクレドールブランドを見守ってきた、セイコーウオッチ 企画開発本部 副本部長の萩原康則氏。クレドールとは、どういったブランドなのか?フォーブスジャパン Web編集部 編集長、谷本有香が話を聞いた。

海外企業のトップは、日本=精緻という印象を持つ

谷本「私自身が世界のさまざまなカンファレンスやフォーラムに参加させていただくことが多いのですが、そのときは必ず海外企業のトップの方に日本の印象を聞くようにしてるんです。そうすると、日本=精緻という言葉をくださるんです。日本のなかで精緻なものはたくさんありますが、私はまず時計メーカーが浮かびます。精緻の極みがそこにあるような気がしています。萩原さんは日本ブランドの極みのような会社にいる方として、そういうご認識はあるのでしょうか」

萩原氏は1984年、服部セイコー(当時)に入社。クレドール、グランドセイコーなど、ハイエンドブランドの企画に長くたずさわってきた。

萩原「私は35年ほどこの会社で仕事をしていますけれど、必ずしも最初からそういう目線でやっていたわけではなくて、歴史のなかでそうせざるを得ないような形になったということが事実かなと思います。1969年にセイコーがクオーツ腕時計を開発しまして、その第1号というのが45万円したんです。45万円というのは、当時トヨタ・カローラが買える値段だったんです。それくらいの価値があった。それはまさにイノベーションであり、クオーツが機械式よりも格段に高い精度を達成することができて、お客さまに正確な時間を提供するというベネフィットを出すことが価値だったということなんです。

それが10年経つと価格が10分の1に、20年経つと100分の1になった。つまり、腕時計自体が機能商品であるというベネフィットでは生きていけないような状況になったということです。それともうひとつ、お客さまのニーズに対応するなかで多ブランド化し、それぞれが違う使命を持つ必要性が出てきたのです。違う使命というのは、クレドール自体がいま歩んでいる道なんですけれども、時刻を知らせること以上の価値、というものをお客さまに提供することが必要になってきたのです」

谷本編集長はBloomberg TV、日経CNBCなどでキャスターを務め、コメンテーターとしても活躍。トニー・ブレア(元英首相)など3,000人を超える世界のVIPにインタビューした実績がある。

谷本「とくにクレドールは、日本人ならではの感性を匠の技術のなかに入れこんで、それが完成形となって表現されています。そんななかで、技術の側面、もうひとつは日本人の感性という言語化もできないところを組み合わせるということ。これは本当に大変な作業だったと思うのですが、その2つの観点からお話いただければと思います」

萩原「技術的な面につきましては、セイコーというバックグラウンドがありますから、そのなかで開発した一番いいものを使えるという非常に恵まれた状況があります。一方で、本当にクレドールが世界に通用する、あるいはクレドールらしさを出すためには、ジャパンとしての美意識をどう表現するのかということに尽きます。それは日本人のなかでも卓越した技能、センスを持っている人たちによってその意識を強くしていく、ということだったと思います。私も商品の企画者として1990年代に現場で商品開発にたずさわりました。そのなかで、たくさんの失敗をしました。技術者と企画者が、お互いにどういうものを追求していけば日本人の心に響くものができるのか、ということを突き詰めていく時間が必要でしたね」

世界に評価される、日本の美意識

谷本「アイデンティティたるところの、いわゆる日本人の美意識とか感性ということを、あえて言葉に表現するとしたら、どんな形になるのでしょうか。もちろん、それは形として表現されているとは思うのですが、萩原さんご自身はどのようにご理解されていらっしゃるのですか」

萩原「一番わかりやすいのは、2016年に発表したトゥールビヨンモデルのように葛飾北斎の浮世絵を文字盤に組み入れたものです。これはどちらかといいますとアイコンなので、お客さまに対してのアピール度は高いのですけど、芯ではないかなと思います。最終的に伝えるのは、緻密な世界に近いものです。緻密さ、あるいは静かに佇む存在感 、というようなものの在り方が、スイスのものと日本のものは違う、ということはあるように思います。

たとえば桜の花びらなどには、緻密で細やかな、日本ならではの加工の技術が入っています。見た目のインパクトだけではなく、細かく見れば見るほど違いがわかるんです。また、磁器ダイヤルは焼物ではあるんですけど、ひとつひとつの目盛を手で描いている。試行錯誤を繰り返し、シンプルに美しいものを表現できるようになっています。最終的にはこのようなもののなかに出てきていると思いますし、これ自体を日本の人が評価すると同時に、少しずつ世界の方々から評価されており、いまでは日本以外でこの腕時計をご購入される方が増えてきています。そういうところが証になってるんじゃないかと思います 」

磁器ダイヤルを採用した2021年発売予定の新作。文字盤の中心にとろりと落ち込むような曲面は、釉薬の焼成の際に生じたもの。こうしたディテールが趣を漂わせる。

谷本「以前、高級料亭の女将が、海外に行くと季節を通して毎回同じ絵が飾られているけれど、私たちは来るお客さまによって掛け軸を替えて、床の間を替えて、という気遣いが重要な文化なんだ、とおっしゃっていました。まさに、これがそれを言い当てているような気がして。職人さんのわかりやすい技術だけではなくて、そこにある気使いがストーリーとなって入っているということが、多くの人たちの心を揺るがしますね」

萩原「文字盤のひとつひとつの目盛を職人が描かなければいけないのかということと、いまのお話というのは相通じるのかな、と思います。腕時計の完成度を高めるために、あるいは、その腕時計に味わいを出すために、何が一番よい手法であるのか。これは機械でやるべきなのか、人間がやるべきなのか、というところまで考え抜いた上で作っているもののよさを、お客さまが腕時計を通じて感じられるということが、最終的に他のものと違う魅力を引き出しているという感じがしています」

文字盤に加賀蒔絵を採用した「螺鈿ダイヤル キャリバー6870 25周年記念限定モデル GBAQ958」。クレストマーク(山の形のロゴ)と鳳凰は、プリントではなく手描きの高蒔絵。背景の風や雲は蒔絵と螺鈿(らでん)。機械では出せない高雅な美意識を蒔絵師の至芸で実現した。

谷本「続いてクレドールとグランドセイコーについてです。私どもの媒体はビジネス誌なので、実用的、合理的なものに重きを置く方が読者には多いのですが、そんななかで、萩原さんの肌感覚として、実用主義のようなところから日本の美意識みたいなものをまといたいというように、時代が変わってきたという感覚はありますか」

萩原「肌感覚としては、正直まだまだなんじゃないですか。今後の状況によって、そのあたりの形が変わってくる可能性は十分にあると思いますけど、いま現在は、まだ経済合理性というものが、どうしても日本のなかでは優先されていると思いますし。より個人の意識というのが高まり、経済合理性だけでなくなるというのが文化だと思いますから、文化になっていく序章みたいなものを感じるようになってきたように思います」

グランドセイコーとは明確に差別化

谷本「グランドセイコー、クレドールと、ラインをあえて分けています。持っている方にとって、腕時計の意味も違うのでしょうか」

萩原「それは違うと思います。グランドセイコーというのは日常で使う美のための腕時計だと思うんです。普段使うものであっても、それは理にかなったものであり、使うための法則にのっとった腕時計であるべきだというのが、グランドセイコーです。それは正確で、美しくて、見やすい。自分がいま何時何分で、ここにいるんだということが正確に認識できる。使うための腕時計です。一方、クレドールというのは日常ではなくて、非日常というとちょっと語弊があるかも知れませんけれども、特別なときにつける腕時計です。それは、時刻の読取りやすさですとか、正確に動いているかということよりも、それが自分の時間を過ごす相棒として気持ちがいいのか、この腕時計をしていることが満足につながるのか、これをしている自分を愛せるのか、という価値観のなかにある腕時計です。だから、ひとりの方が両方を使うことも十分にあり得ると思います」

クレドールのジュエリーウォッチを試着。「気持ちが明るくなる華やかさですね。手元を見るのが楽しくなりそうです」と谷本。

谷本「いずれにしても、日本人はクレドールをつける時間が増えるといいですね」

萩原「それはそう思います。クレドールというブランドの在り方を共感できる。そういう時間が増えるということは、その人の人生はきっと豊かになっていると思いますし、そういう時間が増えるということは、ぼくは財産が増えるようなものじゃないかと思っています。時間というのは、全員に平等に与えられた財産だと思うんですけれども、残念ながらその財産は人によって違いがあります。持っている時間を自分が楽しい時間のために使えるんだったら財産だと。それが、何かやらなければいけないことのために時間を使ってしまう、あるいは、その時間を自分がやりたくないことのために使うというのは、負債に近いような感じなのだと思います。負債のような時間が減って、自分のために使える時間が増えれば、クレドールをつけていただく時間が増えるし、そういう気分も長くなるんじゃないかな、と思います」

山、煌、極、骨、途、技、麗。クレドールをシンボライズする7つの漢字。そこから垣間見えるものは時を刻むこと、装うことへの透徹した哲学だ。これほど清麗な精神性を持ったジャパンブランドがあることを、我々日本人は誇りに思いたい。

写真:クレドール スプリングドライブ 叡智Ⅱ 瑠璃青ダイヤルモデル GBLT997

クレドール スプリングドライブ 叡智Ⅱ 瑠璃青ダイヤルモデル GBLT997

名作の呼び声高い「叡智Ⅱ」に深みのある瑠璃色ダイヤルが登場。磁器で作られた文字盤のとろりとした色艶が何とも美しい。

手巻きスプリングドライブ。PT、磁器ダイヤル。パワーリザーブ60時間。クロコダイルストラップ。ケース径39.0mm。6,600,000円(税込)。

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写真:クレドール シグノ GSWE844

クレドール シグノ GSWE844

イエローゴールドとステンレススティールの2色使いでモード感を演出。ケースにあしらった流れるようなラインで、女性らしい優雅さを高めている。

クオーツ、18KYG、SS、ダイヤモンド(計0.32カラット)。ケースサイズ35.0×21.0mm。1,265,000円(税込)。

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写真:クレドール シグノ GBBD981

クレドール シグノ GBBD981

極薄機械式ムーブメント「キャリバー6899」に手彫りで彫金をほどこしたスケルトンモデル。クラシカルな顔立ちに知性が香る。

手巻き機械式。PT。クロコダイルストラップ。ケースサイズ41.6×33.6mm。3,740,000円(税込)

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text by Keiko Homma / photos by Ryoichi Yamashita
Forbes JAPAN2020年11月に掲載された記事より抜粋